日本人初の国際刑事裁判所(ICC)所長として2024年3月に就任した赤根智子氏。
ウクライナ侵攻に関与したロシアのプーチン大統領、ガザ攻撃を指揮したイスラエルのネタニヤフ首相──世界の権力者に逮捕状を出したICCは、ロシアからの指名手配、米国トランプ政権からの経済制裁という前例のない圧力に直面している。
「われわれはいかなる圧力にも屈しない」──2025年12月、ICC締約国会議で毅然と宣言した赤根智子氏。
愛知県名古屋市に生まれ、検事として全国を転々としながらシングルマザーとして娘を育て、国際司法の第一人者となった赤根智子氏の経歴、プーチン・ネタニヤフ逮捕状の詳細、そして米ロからの圧力に対峙する姿を徹底解説する。
「法の支配」か「力の支配」か──国際司法の最前線で闘う赤根智子氏を通じて、21世紀の権力構造を見つめる。
赤根智子のプロフィール

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| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 氏名 | 赤根智子(あかね ともこ) |
| 生年月日 | 1956年6月28日(69歳・2025年時点) |
| 出身地 | 愛知県名古屋市 |
| 学歴 | 愛知県立旭丘高等学校卒業、東京大学法学部卒業(1980年)、アラバマ・ジャクソンビル州立大学大学院修了 |
| 現職 | 国際刑事裁判所(ICC)所長(2024年3月11日就任、任期3年) |
| 前職 | ICC判事、最高検察庁検事、法務総合研究所所長、函館地検検事正、国連アジア極東犯罪防止研修所所長など |
| 資格 | 検察官、裁判官 |
| 家族 | 離婚(シングルマザー)、娘1人(43-44歳と推定、一般人) |
| 特徴 | 日本人3人目のICC判事、日本人初のICC所長 |
| 著書 | 『戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない』(文春新書、2025年6月) |
赤根智子氏は、1982年に検事任官後、全国各地の検察庁で勤務し、国際司法協力の分野で経験を積んだ。
2018年に日本人として3人目のICC判事に就任し、2024年3月に日本人として初めてICC所長に選出された。
プーチン大統領、ネタニヤフ首相への逮捕状に関与したことで、ロシアから指名手配され、米国から制裁圧力を受けながらも、国際司法の最前線で「法の支配」を守る闘いを続けている。
詳しい経歴──検事から国際刑事裁判所所長へ

愛知県名古屋市での生い立ちと法曹への道
赤根智子氏は1956年6月28日、愛知県名古屋市に生まれた。
愛知県立旭丘高等学校(偏差値58〜72、愛知県内トップの公立進学校)を1976年に卒業した。
旭丘高等学校の教育目標には「真理と正義を愛し自主・自律の精神に充ちた心豊かな生徒の育成を期し、高等学校としての全人的完成教育を行う」とあり、赤根智子氏はこの環境で「真理と正義」への志を培った。
中学生の頃は化学者を目指していたという赤根智子氏だが、高校時代に法律の世界に関心を持ち始め、東京大学法学部への進学を決意した。
東京大学法学部と検事任官

1980年、赤根智子氏は東京大学法学部を卒業。
大学3年生の時に裁判官を志望したが、司法試験合格後に検察官を選んだという。
インタビューで赤根智子氏は「弁護士であれば男女関係なく自分の力で仕事を続けられると考えた」と当時の心境を語っている。
1980年代前半は、女性検事がまだ少数派だった時代である。
1982年、赤根智子氏は司法修習34期を経て検事任官し、横浜地方検察庁の検事としてキャリアをスタートした。
検事時代──全国各地での勤務と国際連携

赤根智子氏は、検事として全国各地を転々とした。
主な勤務地:
- 横浜地方検察庁
- 津地方検察庁
- 名古屋地方検察庁
- 仙台地方検察庁
- 札幌地方検察庁公判部長
- 東京高等検察庁検事
- 函館地方検察庁検事正(2010年)
検事の宿命として2〜3年ごとの転勤があり、赤根智子氏は娘を実家の両親に預けながらキャリアを築いた。
この期間、赤根智子氏は司法修習生時代に結婚し、翌年に長女を出産したが、後に離婚してシングルマザーとなった。
当時は産休制度も十分に整っておらず、産後1ヶ月で仕事に復帰したという。
「罪悪感はあったが、キャリアを築く上で仕方がなかった」と赤根智子氏は後に語っている。
アメリカ留学と国際司法への転身

1988年、検事7年目の32歳の時、赤根智子氏は「このままではなく何か他の人とは違った強みを持つ検事になりたい」と考え、休職してアメリカ留学を決意。
赤根智子氏はアラバマ州のジャクソンビル州立大学大学院で刑事司法を学んだ。
初めての海外生活で、英語には大変苦労したというが、この留学経験が赤根智子氏の国際司法への道を開いた。
帰国後、赤根智子氏は国際司法協力の分野に活動の軸を移していく。
主な役職:
- 2002年:法務省法務総合研究所国際連合研修協力部教官、国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)次長
- 2005年:名古屋高等検察庁検事、名古屋大学法科大学院教授、中京大学大学院法務研究科教授を兼務
- 2013年:法務総合研究所国際連合研修協力部長、UNAFEI所長
- 2016年:法務総合研究所所長
- 2017年:最高検察庁検事、外務省参与・国際司法協力担当大使
赤根智子氏は、国際犯罪防止や司法協力の分野で日本を代表する専門家として、各国の検察官や裁判官との交流を深めた。
ICC判事就任から所長選出まで
2018年3月、赤根智子氏は国際刑事裁判所(ICC)の判事に就任した。
日本人のICC判事就任は、齋賀富美子氏、尾崎久仁子氏に次いで3人目である。
ICC判事の任期は9年で、赤根智子氏の任期は2027年3月までとなっている。
2023年3月、赤根智子氏はロシアのプーチン大統領とマリア・リボワベロワ大統領全権代表に対する逮捕状を発行した裁判官3人のうちの1人となった。
この逮捕状発行により、ロシア連邦捜査委員会は赤根智子氏らに対する捜査を開始し、2023年7月27日にロシア内務省は赤根智子氏を指名手配した。
2024年3月11日、赤根智子氏は18人のICC判事の投票により、ICC所長に選出された。
任期は3年で、日本人がICC所長に就任するのは初めてのことである。
赤根智子氏は「仲間の裁判官から所長に選出されたことを大変光栄に思う。裁判所の各機関や弁護人、被害者側の対話を促進する」と表明した。
国際刑事裁判所(ICC)とは──戦争犯罪を裁く唯一の常設法廷

ICCの設立と役割
国際刑事裁判所(International Criminal Court, ICC)は、オランダ・ハーグに本部を置く、世界で唯一の常設の国際刑事法廷である。
設立の経緯:
- 1998年7月17日:ローマ規程(ICC設立条約)採択
- 2002年7月1日:ICCが正式に発足
- 2025年時点:125カ国・地域が加盟
ICCは、国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪を犯した個人を訴追・処罰することを任務とする。
国家間の紛争を扱う国際司法裁判所(ICJ)とは異なり、ICCは個人の刑事責任を追及する。
ICCの構成:
- 裁判部:18人の判事
- 検察局:主任検察官と検察官
- 書記局:行政・運営を担当
赤根智子氏が所長を務める裁判部は、事件の審理と判決を担当。
所長と2名の次長は「裁判所長会議」を構成し、ICCの適正な運営に責任を有する。
日本とICCの関係──最大の資金拠出国

日本は2007年にICCに加盟した。
日本の貢献:
- 2023年の分担金:約37億5,000万円
- 分担率:15.4%(加盟国中最大)
日本はICCの最大の資金拠出国であり、財政面でICCを強力に支えている。
赤根智子氏は、ICC所長就任後のインタビューで「日本は最大の拠出国。お金だけではない貢献をしなくてはならない」と語り、日本人所長として人材面でもICCに貢献する意欲を示している。
赤根智子氏はまた、「広報活動拠点となる東京事務所設置を実現したい」と述べ、ICC東京事務所構想を推進。
日本政府も、ICCの警備強化や職員の保護のための特別信託基金への財政支援を行っている。
ICCが扱う4つの犯罪

ICCが管轄権を持つのは、以下の4つの犯罪である。
1. 集団殺害犯罪(ジェノサイド)
- 特定の民族、宗教、人種集団の全部または一部を破壊する意図をもって行われる行為
2. 人道に対する犯罪
- 一般住民に対する広範または組織的な攻撃の一部として行われる殺害、性的暴行、拷問など
3. 戦争犯罪
- 国際武力紛争または非国際武力紛争において、ジュネーブ条約などの国際人道法に重大に違反する行為
- 捕虜の不当な取り扱い、民間人への攻撃、病院や学校への攻撃など
4. 侵略犯罪
- 国家の政治的・軍事的指導者が他国への武力攻撃を計画・実行する行為
- 2017年に管轄権が発効
ICCは、これらの犯罪を犯した個人を捜査・訴追し、有罪判決を下すことができる。
時効は存在しないため、何年経過していても訴追が可能である。
未加盟国の問題──米国・ロシア・中国

ICCには125カ国・地域が加盟しているが、国連安全保障理事会の常任理事国5カ国のうち、米国、ロシア、中国は加盟していない。
未加盟国の例:
- 米国:ICCの管轄権を認めず、2002年に署名を撤回
- ロシア:2016年にICC規程への署名を撤回
- 中国:署名せず
- イスラエル:署名したが批准せず
- インド:署名せず
未加盟国の国民に対しても、ICCは管轄権を行使できる場合がある。
例えば、加盟国の領域内で犯罪が行われた場合、または国連安全保障理事会がICCに事態を付託した場合である。
プーチン大統領への逮捕状は、ウクライナの領域内(クリミアを含む)で戦争犯罪が行われたとして発行された。
ネタニヤフ首相への逮捕状は、パレスチナがICCに加盟していることを根拠に発行。
しかし、未加盟国は逮捕状を執行する義務を負わないため、プーチン大統領やネタニヤフ首相の逮捕は極めて困難である。
ICCの限界と課題は、ここに集約されている。
プーチン・ネタニヤフへの逮捕状──権力と対峙する司法

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プーチン大統領逮捕状(2023年3月)
2023年3月17日、ICCは戦争犯罪の容疑でロシアのウラジーミル・プーチン大統領とマリア・リボワベロワ大統領全権代表(子どもの権利担当)に対する逮捕状を発行した。
容疑の内容:
- ウクライナの占領地域から子ども数千人をロシアに連れ去った戦争犯罪
- 国際人道法に違反する子どもの不法な移送
プーチン大統領への逮捕状は、現職の大国首脳に対する異例の措置として世界中で注目を集めた。
赤根智子氏は、この逮捕状を発行した裁判官3人のうちの1人である。
ロシアの反応:
- 2023年3月20日:ロシア連邦捜査委員会が赤根智子氏らに対する捜査を開始
- 2023年7月27日:ロシア内務省が赤根智子氏を刑法違反容疑で指名手配
- 2025年11月14日:ロシアの捜査当局が赤根智子氏を含む裁判官8人とカーン主任検察官を欠席裁判で起訴、指名手配
ロシアは、ICCの逮捕状を「根拠がない」「法的効力を持たない」として全面的に否定している。
ネタニヤフ首相逮捕状(2024年11月)

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2024年11月21日、ICCはパレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡る戦争犯罪と人道に対する犯罪の容疑で、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアブ・ギャラント前国防相に対する逮捕状を発行した。
容疑の内容:
- ガザ地区の住民への飢餓を戦争の手段として使用
- 一般住民に対する意図的な攻撃
- 人道に対する犯罪
この逮捕状は、2024年5月にカーン主任検察官が請求し、ICCの予審裁判部が審査した結果、発行された。
イスラエルと米国の反応:
- イスラエル:逮捕状を「反ユダヤ主義的」として強く非難
- 米国:ICCの決定を「不当」として批判
- ネタニヤフ首相:「中傷キャンペーンに対する断固とした措置だ」と米国の制裁を歓迎
イスラエルも米国もICCに加盟していないため、逮捕状の執行義務を負わない。
しかし、ICC加盟国を訪問した場合、加盟国は逮捕・引き渡しの義務を負う。
ミャンマー・ミンアウンフライン総司令官逮捕状請求

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2024年11月27日、ICCのカーン主任検察官は、ミャンマーで少数派イスラム教徒ロヒンギャを迫害したとして、人道に対する犯罪の容疑でミンアウンフライン国軍総司令官の逮捕状を請求した。
ミャンマーはICCに加盟していないが、ロヒンギャ難民が逃れたバングラデシュがICC加盟国であるため、ICCは管轄権を行使できる。
現在、ICCの予審裁判部が逮捕状発行の可否を審査している。
逮捕の困難さと法の支配の意義
プーチン大統領もネタニヤフ首相も、現時点では逮捕される見込みは極めて低い。
ロシアもイスラエルもICCに加盟しておらず、自国の指導者を引き渡す義務を負わない。
また、両国とも強大な軍事力と国際的な影響力を持っているため、ICC加盟国であっても逮捕に踏み切ることは政治的に困難である。
しかし、ICCの意義は別のところにある:
赤根智子氏は、日本記者クラブでの会見で次のように語った。
「ICCは正義がなければ持続的な平和・秩序はないとする原則に基づいて設置されている。重大な犯罪に対して責任を追及しなければ、復讐と暴力のサイクルをさらに助長する。持続的な平和は、法の支配によってのみ築かれると信じる。時効はないので最後まで遂行に向け努力する」
逮捕状の発行それ自体が、権力者の行動を制約し、国際世論に影響を与える。
プーチン大統領は、ICC加盟国への訪問が事実上不可能になった。
「法の支配」を守る闘いは、逮捕の成否だけで測られるものではない。
ロシアと米国からの圧力──ICC存続の危機

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ロシアによる指名手配(2023年7月、2025年11月)

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2023年7月27日、ロシア内務省は赤根智子氏を刑法違反容疑で指名手配した。
ロシアは、プーチン大統領への逮捕状発行を「不当行為」として、ICCの裁判官らを標的にした。
2025年11月14日、ロシアの捜査当局は、プーチン大統領への逮捕状に関する捜査を終了したと発表。
ロシアは「無実と判明している人物の刑事責任追及」などを理由に、赤根智子氏を含む裁判官8人(現職・元職)とカーン主任検察官を欠席裁判で起訴し、指名手配した。
赤根智子氏は、ロシアに入国すれば逮捕される可能性があるため、警視庁の警護員(SP)が常時警護している。
日本記者クラブでの会見の際も、複数の警視庁SPが周囲に目を光らせていた。
赤根智子氏は指名手配について、「ローマ規程締約国と締約国会議が、ロシアの措置をICCの業務を妨害する許容できない行為として強く非難したことは留意したい。ICCの判事や職員の安全、および裁判業務を維持するための努力を所長として継続していきたい」と述べた。
また、「私自身も、あまり外出をしないよう心がけるようになった。自分の安全のためだけではなく、自分に何か起きれば裁判所自体への脅威にもなり得る」と慎重な姿勢を示している。
トランプ政権による制裁(2025年2月〜)

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2025年2月6日、トランプ米大統領は、ICC当局者への経済制裁と渡航制限を可能にする大統領令に署名した。
これは、ICCがイスラエルのネタニヤフ首相に逮捕状を出したことへの報復措置である。
米国の制裁措置:
- 2025年2月〜8月:ICCの裁判官6人、検察官3人の計9人を制裁対象に指定
- 制裁対象者:米国内の資産凍結、米国への入国禁止
- 欧州など一部のICC締約国内でも金融取引が制限される影響
2025年8月20日、トランプ政権はさらに4人のICC職員(判事・検察官)を制裁対象に追加した。
ルビオ国務長官は声明で「ICCは政治的に偏っている」と批判し、「ICCの不正で根拠のない行動に対し、あらゆる措置を取る」と強調。
赤根智子氏が制裁対象に含まれているかは公表されていないが、ICC所長として制裁の影響を受ける立場にある。
米国の制裁により、ICC職員や家族の生活が不安定になり、金融取引や渡航に支障が出ている。
赤根所長の反論──「法の支配」崩壊への警告

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2025年6月27日、赤根智子氏はオランダ・ハーグから日本メディアのオンライン取材に応じ、トランプ政権の制裁を強く批判した。
「第三国にも影響を及ぼしており、国際法違反だ」
赤根智子氏は、米国の制裁が国際法に違反していると明言した。
「制裁が続けば、国際社会が長年かけて築いてきた『法の支配』にのっとったICC体制を崩してしまう」
赤根智子氏は、米国の制裁がICCの存続そのものを脅かしていると警告。
経済制裁によってICCが機能不全に陥れば、「裁判は破綻する。被害者は救済も希望も得られなくなる」として、国際社会における法の支配が崩壊すると訴えた。
赤根智子氏は著書『戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない』(2025年6月刊行)の中でも、米国とロシアの圧力について詳細に記している。
ICC締約国会議での決意表明(2025年12月)

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2025年12月1日、オランダ・ハーグでICC締約国会議が開幕した。
赤根智子氏は冒頭演説で、ICCが「攻撃や脅迫、圧力に直面している」と述べ、組織存続への危機感を表明した。
「われわれはいかなる者からの圧力にも屈しない」
赤根智子氏は、米ロの圧力にひるむことなく、「正義を追求し、残虐行為の被害者の尊厳と権利を擁護し続ける」と強調した。
2025年12月3日、ICC締約国会議は、米国による制裁などを念頭に「脅迫や高圧的な手段で、ICCの独立性を侵害するような企てに重大な懸念を示す」との宣言を採択した。
宣言は、米ロを名指しすることは避けつつも、両国の動きにひるむことなく、ICC職員が職務を公正に遂行できるような措置を加盟国が取ると言明。
「世界の平和や安全、幸福を脅かす罪が処罰されないことはあってはならない」とし、ICCの活動を支える決意を示した。
日本の南博駐オランダ大使は、締約国会議で「今後も全力を尽くす」と表明し、日本政府のICC支援継続を約束した。
ICCは、米ロの圧力という前例のない危機に直面しながらも、加盟125カ国・地域の支持を背景に、「法の支配」を守る闘いを続けている。
日本の役割と国際社会の支援

日本政府の対応
日本政府は、赤根智子氏のICC所長就任を全面的に支持している。
外務大臣談話(2024年3月)では、次のように述べられている。
「我が国としては、引き続き、ICCの発展を支援し、国際社会における法の支配の推進に積極的に貢献していきます」
日本は、ICCの最大の資金拠出国として、財政面での支援を継続している。
2023年の日本の分担金は約37億5,000万円で、分担率は15.4%である。
さらに、日本政府はICCの警備強化や職員の保護のための特別信託基金への財政支援も行っている。
ロシアからの指名手配や米国からの制裁圧力に対して、日本政府は「不当な圧力には屈しない」とのコメントを発表。
日本政府は、赤根智子氏の安全確保のため、警視庁の警護員(SP)を派遣している。
ICC東京事務所構想

赤根智子氏は、ICC東京事務所の設置を強く推進している。
東京新聞のインタビューで、赤根智子氏は次のように語っている。
「広報活動拠点となる東京事務所設置を実現したい。今どんな事件を扱い、裁判がどう進められているか、アジア、日本の人たちに具体的に知ってもらい、インターン、ボランティアなどで働くことによって、ICCを身近に感じてもらいたい。そこから次のステップとしてICC本体で働く意欲を養っていきたい」
ICC東京事務所は、アジア太平洋地域におけるICCの広報拠点として、以下の役割を果たすことが期待されている。
期待される役割:
- ICCの活動を日本・アジアに広報
- インターン・ボランティアの受け入れ
- 人材育成と次世代の国際司法専門家の養成
- アジア太平洋地域の加盟国増加への貢献
赤根智子氏は、慶應義塾大学との基本合意書(MoU)締結(2024年6月12日)など、日本の大学との連携を強化している。
慶應義塾大学とのMoUにより、学生のインターン派遣や教員の研究・研修上の交流が可能となり、将来的には日本の学生の国際刑事司法での活躍の場の拡大が期待されている。
締約国の結束と課題
ICC締約国会議での宣言は、米ロの圧力に対する加盟国の結束を示した。
しかし、現実には課題も多い。
課題:
- 米国の制裁により、一部の締約国もICC職員との金融取引を制限
- ロシアや中国など未加盟国の影響力
- 逮捕状の執行が困難な現実
赤根智子氏は、日本に対して次のような期待を表明している。
「アジア太平洋のリーダー的存在として、当該地域の加盟国を増やす努力を期待したい。ICCの警備強化や職員の保護という観点から、特別信託基金へのさらなる財政的支援のほか、日本の関係省庁から情報の共有などもお願いしたい」
日本は、財政支援だけでなく、人材育成、広報活動、加盟国拡大など、多面的にICCを支援する立場にある。
国際社会における「法の支配」の重要性

赤根智子氏は、慶應義塾大学での講演(2024年6月12日)で、「ICCは世界の刑事司法の発展に寄与できるのか──日本は、日本人はどう向き合うべきなのか」と題して、国際社会における法の支配の重要性について力説した。
東京大学の鈴木一人教授(国際政治経済学)は、次のように指摘する。
「国際秩序を維持しようとするICCの努力がそのままリスクになっている。本来、ICCや国際法は各国の利害関係に中立であるべきだが、現実には大国の圧力に直面している」
ICCが「法の支配」を守れるか否かは、国際社会の未来を左右する。
大国の「力の支配」に対して、ICCが「法の支配」を貫けるか──この闘いは、21世紀の国際秩序の行方を占うものである。
日本は、赤根智子氏を通じて、この闘いの最前線に立っている。
赤根智子の家族と私生活

司法修習生時代の結婚と出産
赤根智子氏は、司法修習生になった年(1980年頃)に結婚した。
夫の職業は公表されていないが、同じ法律関係の職業である可能性が高いとされている。
結婚の翌年(1981年頃)、赤根智子氏は長女を出産。
赤根智子氏は、愛知県弁護士会の会報「SOPHIA」2019年8月号のインタビューで、次のように語っている。
「私は司法修習生になった年に結婚し、翌年修習中に長女を出産しました」
当時は産休制度も十分に整っておらず、赤根智子氏は産後1ヶ月で仕事に復帰したという。
1980年代前半は、女性検事がまだ少数派で、ワーキングマザーとして検事を続けることは極めて困難な時代だった。
離婚とシングルマザーとしての道

赤根智子氏は、検事として全国各地を転々とする生活の中で、夫と離婚した。
離婚の詳細な理由は公表されていないが、多忙な仕事のために生活のすれ違いがあったと考えられる。
検察官は2〜3年ごとに全国を転勤する宿命にあり、家族との時間を確保することが難しい。
離婚後、赤根智子氏はシングルマザーとして娘を育てながら、検事のキャリアを続けた。
娘と両親のサポート

赤根智子氏は、娘を実家の両親に預けてキャリアを築いた。
「両親に育ててもらったほうが娘のためになると割り切った」と赤根智子氏は後に語っている。
娘は愛知県名古屋市の赤根智子氏の実家で、祖父母とともに育った。
学校のPTA活動なども、赤根智子氏の両親(娘の祖父母)が出席していたという。
赤根智子氏はインタビューで、両親への感謝の気持ちを繰り返し語っている。
「ご両親にはとても感謝している」
娘は現在43〜44歳と推定されるが、一般人であるため詳細は非公開となっている。
仕事と育児の両立

赤根智子氏の仕事と育児の両立は、両親のサポートなしには成立しなかった。
赤根智子氏は、「罪悪感はあったが、キャリアを築く上で仕方がなかった」と振り返っている。
1980年代〜1990年代の子育てに関する考え方は現在とは異なり、母親が子どもを両親に預けて仕事を続けることには厳しい目が向けられた時代である。
それでも赤根智子氏は、検事としてのキャリアを諦めず、国際司法の道を切り開いた。
赤根智子氏の生き方は、女性が仕事と家庭を両立する上での課題と、家族の支援の重要性を示している。
現在、赤根智子氏はICC所長として、ロシアからの指名手配、米国からの制裁圧力という前例のない状況の中で、警視庁SPの警護を受けながら職務を遂行している。
「自分に何か起きれば裁判所自体への脅威にもなり得る」と語る赤根智子氏の姿は、個人の安全を犠牲にしても「法の支配」を守ろうとする強い意志を示している。
在話題、注目されている弁護士については、以下の記事で詳しく解説している。
まとめ──赤根智子とICCの使命

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日本人初のICC所長の意義
赤根智子氏は、2024年3月に日本人として初めて国際刑事裁判所(ICC)の所長に就任した。
日本は、ICCの最大の資金拠出国でありながら、これまで人材面での貢献は限定的だった。
赤根智子氏のICC所長就任は、日本が「お金だけではない貢献」として人材面でもICCを支える意義を示している。
赤根智子氏は、検事として全国各地を転々とし、シングルマザーとして娘を育てながら、国際司法の道を切り開いた。
アメリカ留学、国際司法協力の専門家としての経験、ICC判事としての実績──これらすべてが、ICC所長という重責を担うための礎となった。
大国の圧力に屈しない姿勢

赤根智子氏は、プーチン大統領とネタニヤフ首相への逮捕状に関与したことで、ロシアから指名手配され、米国から制裁圧力を受けている。
ロシアは2025年11月、赤根智子氏を含む裁判官8人を欠席裁判で起訴し、指名手配した。
米国トランプ政権は2025年2月以降、ICCの裁判官・検察官計9人に経済制裁を科した。
ICCは、存続の危機に直面している。
しかし、赤根智子氏は屈しない。
「われわれはいかなる者からの圧力にも屈しない」
2025年12月のICC締約国会議での演説は、大国の圧力に対する赤根智子氏の毅然とした姿勢を示している。
赤根智子氏は、警視庁SPの警護を受けながら、「自分に何か起きれば裁判所自体への脅威にもなり得る」と自らの安全を犠牲にしても職務を遂行している。
「法の支配」か「力の支配」か

ICCを巡る闘いは、21世紀の国際秩序の根幹に関わる問題である。
2つの原則の対立:
- 「法の支配」:国際法に基づき、権力者も法の下に平等
- 「力の支配」:軍事力・経済力を持つ大国が国際秩序を決定
プーチン大統領もネタニヤフ首相も、現時点では逮捕される見込みは極めて低い。
しかし、ICCの逮捕状は、権力者の行動を制約し、国際世論に影響を与える。
赤根智子氏が繰り返し強調するように、「持続的な平和は、法の支配によってのみ築かれる」のである。
米国とロシアという2つの大国が、ICCを攻撃している現実は、「力の支配」が「法の支配」を脅かしていることを示している。
権力構造:
米国・ロシア(軍事・経済大国)
↓
ICC所長・裁判官への制裁・指名手配
↓
ICCの独立性への圧力
↓
「法の支配」の崩壊リスク
赤根智子氏とICCの闘いは、この構造に対する抵抗である。
権力ウォッチの視点

『権力ウォッチ』は、赤根智子氏とICCの動向を今後も追い続ける。
注目ポイント:
- プーチン・ネタニヤフ逮捕状の行方
- 米国の制裁の影響
- ロシアの指名手配の実効性
- ICC東京事務所構想の進展
- 日本政府のICC支援の継続
- 赤根智子氏の安全確保
- 次のICC逮捕状の対象
赤根智子氏の闘いは、権力者を監視し、「法の支配」を守るという『権力ウォッチ』の理念そのものである。
ICCが「法の支配」を守れるか否かは、国際社会の未来を左右する。
大国の圧力に屈することなく、戦争犯罪と闘い続ける赤根智子氏の姿勢は、権力を監視し続ける重要性を示している。
「正義がなければ持続的な平和・秩序はない」──赤根智子氏の言葉は、『権力ウォッチ』が追い求める真実でもある。
国際司法の最前線で闘う赤根智子氏を通じて、私たちは21世紀の権力構造と、「法の支配」を守る闘いの困難さを目の当たりにしている。







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